Looking through the sea

KIRITA KEISUKE

KIRITA KEISUKE
桐田 敬介

Looking through the sea
うみをみている

この1年ほど、脳裏に取り憑いているあの円を描きたい、と思っていた。そこには日々すでになくなった哲学者や教育学者の書き表わした概念について研究しながら、日々いま生きている子どもたちや大人たちの教育と学習を支援していくなかで、わたしの中では当たり前に死者と生者とが適切に「共存」している状況を肯定したい、描きたいという私自身の意図も反映していたと思う。死者が生者に利用されることなく、生者が死者に利用されることなく、共存することは非常に困難で、いわば自分の内側に意図的に死者の思考をトレースしながら、死者であればこう考えたのではないか、こう感じたのではないかと推測する訓練をしつつ、生者がいまどんな現実を生きているかを見据えその声が他の(死者たちを利用する)生者の声に妨げられることなく挙げられる状況を作りださなければいけない。その状況の隠喩が、この円だった。「死人に口なし」でなく、かつて生者であったもの、つまり自身の声を持つ存在として認識されなければいけない。そこで単なる黒ではなく、生きた形の乳白色を塗り重ねた上に、その形を保持したままインクで闇を塗らねばならなかったのだと思う。

H:455mm W:652mm D:20mm W(重量):0.8kg

2022
ミルクペイント、スーパーブラックインク